サルモネラ・エンティティディス。
忌み嫌わし細菌は、その日。シェフのピンチを救ったのだ。
一体なぜ?
転載元: 「僕のヒーローサルモネラ」 作者: アシカ (Cindy) URL: https://www.cindythink.com/puzzle/104
武装した強盗団に襲われたレストラン。
凶悪なヴィランどもが立てこもり始めてから、数時間が経過していた。
外から覗かれないよう窓は締め切られ、熱さで脱水症状が出かかっている方もいる。
このままではお客さまの命が危ない。
彼らを救おうとしたシェフは、ふと、調理用に台所へ放置していたウミガメを思い出した。
おりしも季節は夏。食中毒のシーズンである。
一か八か。三ツ星レストランのシェフとしてのプライドをかなぐり捨て、彼は賭けにでることにした。
シェフ 「みなさま。お腹が空いていませんか?よろしければ当店一押しのウミガメのスープを提供します」
ヴィラン 「…見張りを立たせる。妙な真似をしたらぶっ殺すからな」
ヴィラン 「おい、お前が先に食え」
シェフ 「かしこまりました…ほら、何ともないですよ」
ヴィラン 「おお、うめぇじゃねぇか。」
ヴィラン 「お前だけは生かしといてやるよ。hahaha」
ヴィラン 「おぇ…腹がいてぇ…ゲボロロロ」「ゔぉぇろろろろ」「うぉぷっうェオロロロ」「ヴォォォェェ………(シーン)」
シェフ (読みは…当たった…奴がいたんだ…そう…ウェプッ)
サルモネラ「私が来た!!」
シェフ 「さぁ、彼らが弱っているうちに逃げてくだゲボロロロ」
こうして強盗団が急性胃腸炎で苦しんでいる間に、店内に取り残された人たちは店を脱出。
機動隊が突入し、ゲロにまみれた強盗団を無傷で確保した。シェフに機転によってお客様の命は救われたのだ。
救急車で搬送される途中、食中毒による嗚咽と、料理人として最低なことをした後悔で、シェフは顔をぐしゃぐしゃにして泣いていた。
しかしオーナーは彼をクビにすることはなく、マスメディアもシェフを責めることはなかった。
退院した翌日、最後に別れを告げようと職場へ向かったシェフは、店からあふれんばかりのお客や、ともに働いていた従業員が、笑顔と拍手で迎えてくれたのをみて呆然とした。
サルモネラ「君はヒーローになれる」
あの日の細菌の幻聴が聞こえた気がしたシェフは、自分を救ってくれたオーナー、お客、そして多くの人々の優しさを感じて涙ぐんだ。
そして彼はそっと目元を拭い、泡立てたスポンジで台所をピカピカにしたのだった。