※本問は、若干要知識です。
今は閉鎖されましたが、かつて「即興小説トレーニング」というサイトがありました。
「小説を書く」というボタンを押すと、お題と小説入力欄が表示され、お題にのっとった小説を制限時間内に書く、というものです。
制限時間になると画面が切り替わって執筆が強制終了となり、そのまま小説が公開されるという仕組みでした。
以下は、そのサイトで私が10年ほど前に書いた小説? です。当時、わりと好評をいただきました。
制限時間は1時間、お題は「日本凶器」。いや、奇妙奇怪なお題もよく出たものなのです。
では、問題です。最後の面接官Aのセリフを当ててください。趣旨が合っていれば正解とします。質問数制限はありません。
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えー、いっぱいのお運びでありがとうございます。安牌亭どじょうでございます。
就職活動まっさかりの時期でございますな。落語家なんざあ、就職活動なんてものはないわけで。
師匠のところへ行って「弟子にしてください!」って言うぐらいのもんです。
師匠のほうも師匠のほうで、
「なんで弟子になりたいんだ?」
「えっ、理由ですか?……いや、なんとなく」
「なんとなくか。わかった。明日から来い」
なんてんでね。
どっちもやる気なんかありゃしない。
まあまあ入門してからは世間に揉まれることがありますんで、だんだんと形になってくるんですがね。
そうやって入門して、師匠から名前をいただくわけですが、これも本気で付けたんだかなんだかわからないやつも多い。
あたくしなんてひどいもんです。「どんな名前をいただけるのかな」と思ってたら、
「おい、お前の名前決まったぞ」
「ありがとうございます」
「どじょうだ」
「はい?」
「どじょうだ」
「はい?」
「どじょうだ」
ひどいもんです。
落語のほうでも変わった名前というのがございまして、寿限無なんてのがありますな。寿限無寿限無五劫の擦り切れ、ってどんどんと続いていく。しまいにゃひどい目にあう、ってんですが。
あまり変わった名前じゃ困ることも多いということで…………
面接官A「はい、じゃあ、名前と出身大学を教えてもらえますか」
学生「はい。日本凶器と申します。出身はXXX大学で、専攻は……」
面接官A「ちょ、ちょっと待った。名前はなんと?」
学生「日本凶器です」
面接官A「ああ、履歴書にもそう書いてあるねえ。なんというか、変わった名前だねえ」
面接官B「こういうことを聞くのもなんだけど、親御さんはなんでそんな名前を」
学生「なんでも、誰にでも名前をすぐに憶えてもらえるから、と」
面接官A「ああ、ああ、昔聞いたことがあるねえ、そういう人がいるって。でも役所が受け付けてくれなかったとか」
学生「私の名前も揉めたと聞きます。でも親のほうもそれを見越して、最初は別の名前で申し込んだようで」
面接官B「なんて」
学生「日本性器」
面接官A「それはひどい」
学生「それで役所で揉めて、いったん取り下げて、『日本凶器』を持って行ったとか。『まだましだろう』ということで受け付けてもらえたそうです」
面接官A「頭脳プレイだな」
面接官B「いや受け付けちゃだめでしょう」
面接官A「でも最近は変な名前も多いからな。Wikipediaで見ましたが、聖夜と書いてイブとか」
面接官B「ああ、私もTwitterで見たことがあります。泡姫と書いて……読みは忘れた」
学生「いや、それはいいですから、面接を続けてください」
面接官A「ああ、そうだそうだ。ええと、WITに留学してるんだね。すごいねえ」
面接官B「しかも優秀な成績だねえ」
面接官A「向うでは名前で苦労することもなかっただろうし、よかったねえ」
学生「また名前の話ですか。まあ、おっしゃるとおりその苦労はなかったです。でも逆に」
面接官B「逆?」
学生「向うの同級生で、私の名前を調べたやつがいまして」
面接官A「ほう」
学生「それが日本語を誤解したようで、『ジャパニーズ・ソード』と」
面接官A「それはそれは」
学生「それから一躍人気者に」
面接官B「刀と凶器はちょっと違うけどねえ」
学生「まあ、私もこの名前にはうんざりしてるんで、『剣』と改名しようかと思ってます。読みはソード」
面接官B「きみもだいぶ毒されてるんじゃないか」
面接官A「おや、もうこんな時間じゃないか。そろそろ面接は終わりに」
学生「待ってください。まだ志望動機も話してませんよ」
面接官A「そういえばそうだな。じゃ手短に頼むよ」
なんてんで。ひどいもんで、ほとんど名前の話で面接が終わっちゃった。
でも面接で会話が弾むというのはいいことっていうのもありますんで、この学生さん、期待して連絡を待っていた。
でも会社から来た連絡を見るってえと、
「採用は見送らせていただきます」
と書いてある。
学生さん、優秀だと自分で思ってることもあっておさまらない。
あんまり褒められてことじゃないとわかっていたが、会社に押しかけていった。
面接官A「ああ、お待たせしました」
学生「あ、あのときの。ひどいじゃないですか。私の経歴に問題があったんですか」
面接官A「いや、非常に優秀だと思いますよ」
学生「じゃあ、性格に問題があるとか」
面接官A「いやいや、非常にしっかりした人だと思いました」
学生「じゃあ、なぜ」
面接官A「なんというか、会社との相性というか」
学生「なんです、相性って」
面接官A「XXXXXXXXXXXXXXXXX」
転載元: 「「落語・採用面接」」 作者: GoTo_Label (Cindy) URL: https://www.cindythink.com/puzzle/10188
面接官A「日本凶器だけに、あいくちが悪かった」