「ここまでいらっしゃるのは、大変だったでしょう。お疲れ様です。おっしゃっていただければ駅までお迎えに上がりましたのに」
出張先に着いた女の姿を見て、相手はそう声をかけた。
「いえいえ、大した距離ではありませんし、歩くのも好きですから、お構いなく」
実際、最寄駅はそこからすぐ見えるぐらいの場所で、歩いてもせいぜい7−8分だったので、女は正直にそう答えた。
打ち合わせが終わった後、
「わざわざお越しいただきありがとうございます。それではこちらで失礼いたします」
と言われ、女は取引先に見送られた。
だが、駅までの道を歩き始めたとたん、
「え、ここ歩かなきゃいけないのか…」
と女は辟易した。
出張先で荷物が増えたわけではなく、天候が変わったとか、暗くなったということはない。
女の健康状態に変化はなく、座って商談していただけなので、疲れたということもない。
なぜ女は帰りは歩きたくないと思ったのだろう?
*2月2日(日)午後2時ごろに〆ます。
転載元: 「I got one more run and it's gonna be a sight to see」 作者: gattabianca (Cindy) URL: https://www.cindythink.com/puzzle/10179
登り坂より下り坂の方が大変なの。
ヒール履いてると。
取引先の会社は、最寄駅を降りて、急勾配の坂を上がった高台にあった。
その距離、駅から歩いておよそ7〜8分。
高台からだから、その駅もよく見える。
そんな場所だと知らなかった女は、いつものようにスーツにハイヒール姿で取引先に向かった。
先方の担当者の男性は、そんな女の姿を見て、歩くのが大変だったと思ったのかもしれない。
でも、ヒールを履いていると、勾配が相殺されて、登り坂を歩くのは実は意外と楽なのだ。
一方、下り坂だとヒールの勾配が重なって、人が思う以上に歩きにくい。
でも、一般的に言ったら下り坂の方が楽なので、帰りに送ろうと声をかけることは思いつかなかったのかもしれない。
女はやむなく、とことこ横向きになりながら駅までの道を降りていくのであった。